「僕の死に方」金子哲雄著を読みました。
流通ジャーナリスト金子さんの最後の500日を本人とその奥さまが綴ったドキュメンタリーです。肺カルチノイドという不治の病で突然の余命宣告からお亡くなりになるまで、いや自分の葬儀の段取り、会葬御礼まで書かれた金子さんのドキュメントです。
人は誰でも死にます。その「死」直前までの心境が赤裸々に語られています。医療従事者や仕事仲間、奥様への感謝の気持ちに涙があふれてきます。金子さんの仕事は「人を喜ばせたい」という一心からくる真の働きだな~って感じる一冊です。
【珠玉の一文】
「おかしな言い方だが、末期がんとわかって以降、仕事の喜びが増した。毎回、この仕事が最後かもしれないと思って仕事に臨む。そう思うと、ますます全力で取り組むことができた。仕事ができる喜びを体いっぱいに享受することができた。」
この本は金子さんが流通ジャーナリストになっていく過程にも読み応えがありますので、ビジネス書としてもオススメです。
読後、私はAmazonレビューにも目を通しました。9割がたが4つ星以上の高評価なのですが、星が1つ2つもありました。数パーセントの意見ですが、その内容を読むと今の日本の抱える問題が透けて見えるような気がしました。人によって、こうも考え方が違うのだなと良い勉強になりますので、ぜひ。
【その他の刺さったコトバ】
・お釈迦様は、すべてのことを語り尽くしてから、なくなられたんですよ。
・肺カルチノイド。「うちではできません」と門前払いする大病院も存在した。大病院は、自分の病院の治癒率を下げたくない。したがって日常的に、治癒する可能性がある患者が優先されていると言うことなのだろう。治癒する可能性が低い患者は極端な話、邪魔者でしかない。
・私はTの一言で数学を勉強するのをやめた。やっぱり好きなことで勝負しないと勝てないんだ。高校2年生の私は、その時はっきりと悟ったのだ。
・私は、何が好きなんだろう?答えはわかっていた。3歳の時に、初めて1人で買い物に行かされた時から、私は安く買うことが大好きだったのだ。戦前生まれだったせいかもしれない。母は何かあると、教科書ですら信じるなと言った。
・「お小遣い=買い物のお釣り制度」
・日課はチラシのチェック。目を皿のようにして、隅から隅まで読み込んだ。
・金子くん、将来の独立を考えているなら、個人資産を10億円持っている人、10人に出会えるような会社がいいよ。役に立つアドバイスができるようになれば10億円の1% × 10人分、つまり1億の練習も見込めるかもしれないから。
・大事なのは、自分なりの方法で相手を喜ばせることだ。人が喜ぶ事は人それぞれ違う。千差万別だ。このオーナーにとっては、宝物だった。だから、答えてくれた私への信頼感は、飛躍的に。実際、独立後の私を支えてくれた。
・私の知り合いでランニングコストが高い女性と結婚した人はみんな不幸になっている。どんな奥さんと結婚するかで人生は変わる。それは真理だと思う。
・妻は一方で1番近くにいる他人だ。彼女が面白いと感じない話は、自分でいいと思っていても、やはり他の人にとっても面白くないだろう。妻の反応が、私の構成能力を格段にアップさせてくれたのだ。このことは、私がテレビに出ていたら非常にプラスになった。彼女こそが私の最初の視聴者なのだから。
・最初にチェックするのは、牛肉の値段だ。値段のトップとボトムをチェックする。実は牛肉の値段の高い安いがその地域の証券の経済力を端的に表しているからだ。一方で、鶏肉や豚肉は、山手の田園調布も下町の北千住も値段がさほど変わらない。しかし牛肉は圧倒的に違う。
・1つだけ言える事は、自分はどんな仕事でもグッドパフォーマンスを心がけていたと言うことだ。
・堀先生の第一声を私は忘れない。「咳、お辛かったでしょう」私の顔をじっと見て、患者の立場になって声をかけてくださったのだ。その瞬間、私は号泣していた。大学病院や専門病院では、患者ではなく、ものとして扱われていたような気持ちだった。
・時折は、妻に頼んでスーパーに行ってもらい、予想した価格や品薄になっていると思われる商品の在庫状況等について確認してもらった。
・人生の最終コーナーに向かう中、自分のしたいことをし、さらに心温まる医療サービスを受けられたことに、感謝したい。いったい自分にどんな恩返しができるのか。今はそのことばかりが頭に浮かぶ。
・私の周囲にも「もっと食べなきゃ」とアドバイスしてくれる人がいたが、そう言われるのは本当に辛い。食べなければいけないことはわかっているのだが、それができないのだ。食べると吐き気との戦いも待っていた。経験して初めてわかることがある。もし皆さんの周りにがん患者がいたら、「好きにしたらいいよ」と暖かく声をかけて欲しい。頑張れと言う言葉も辛い。
・戒名のおかげで、今まで見えていなかったことが見えるようになり、寿命伸ばす結果となった。この戒名の持つ意味は、とてつもなく重いものだった。
・それでも(あの世に)連れて行かれないのは、やり残していることがあるからだったのだろう。やり残したことはわかっていた。死んだ後の事だ。
・賢い選択、賢い消費をすることが人生を豊かにする。自分が何度も口にしてきたセリフだ。葬儀は、人生の幕引きだ。これも含めて、人生なのだ。その最後の選択を間違えたくなかった。
・葬儀と葬儀業プロデュースすることで、相手に喜んでいただきたいのだ。実際こうしたプロデュース作業は楽しかった。自分の姿にまつわることなのに、作業中、喜んでくれている相手の顔を想い浮かべて、笑さえこぼれた。葬儀はどうか。これは間違いなく一生に1度だ。しかも葬儀には当の主役はいない。
・私を私の恐怖から救出してくれたのは、仕事だった。(中略)私は、流通ジャーナリストを目指した初心を思い出していた。誰かに喜んでもらいたい。それが自分の信念だったではないか。たとえ死ぬからといって、嘆いていても、誰も喜びはしない。周りが暗く沈むだけだ。だったら今自分のできることをしよう。それには仕事のリクエストにきちんと答えることだ。相手が100を望むなら、120で返そう。
・パートナーなのに、同士なのに、妻の人生だけを奪い続けることに、もう耐えられない。そろそろ、自分の人生に決着をつけたい。
正・直、自殺したい。でももうそれもできない。体が全く動かない。正直に言うと、今すぐ死にたい。この苦しみから解放されたい。誰かが知らせてくれるなら、喜んで死ぬと言う気持ちにもなる。でももう動けない。歩けないから、ベランダにもたどり着けない。飛び降りようにも飛び降りられない。痛くて苦しくて、胸の周りがなんとなくモヤモヤしていて、生きた心地がしない。このまま行ってしまうかもしれないと思っているけれどまだ生きている。天命に従うしかないのだろう。自分の人生を選択してきたつもりだったが、最後の最後になって、終わりの瞬間を選べないとは。
・「稚ちゃん、生きることと死ぬことってやっぱり同じだよな。」最後の1ヵ月、金子はよくそう言いました。並走していた私も、それに共感できました。うまく言葉にできないのですが、金子とともに、懸命に前に進んでいるうちに、金子はあの世側に移り、私はこの世側に残ったと言う感覚なのです。