今日は野球映画をご紹介いたします。

本題に行く前に、まずは余談から。

「バンビーノの呪い」と言う言葉を聞いたことありますでしょうか?

1918年にレッドソックスがヤンキースにベーブ・ルースを放出したこと、これがバンビーノ(ベーブルース)の呪いと言われ80年以上にわたってレッドソックスがワールドチャンピオンになれなかった理由だと言われております。

その呪いが解いたのが、この映画の主人公と言われております。

という訳で今日ご紹介する映画はブラッドピット主演の「マネーボール」です。
これは原作の本も有名ですが、映画の方で話を進めます。

2002年のアメリカのプロ野球の実話で、アスレチックスという小資本球団がワールドシリーズに挑戦する物語です。どれくらい小さいかというとヤンキースが150億円くらい選手達の契約金にお金を使うのに対してと50億円以下。
主人公は球団ジェネラルマネージャーのビリービーン。

資本が小さい球団はどんなに良い選手を育成しても結果、強豪に選手を引き抜かれてしまうという悩みを抱えていました。そこでお金で選手を買うという発想を捨てて、お金で勝利を買うという戦略に出ます。統計学を使って資本力の強いチームと戦うという物語です。そして強豪に立ち向かってワールドシリーズを目指すというお話です。

この映画は3つの見所があります。
1つは野球映画として、2つ目はビジネス映画としてそして3つ目がヒューマンドラマとしてです。

まず野球映画としての魅力から。
ジェネラルマネージャーというのはオーナーから貰った予算で勝てるチームを編成する仕事。選手をトレードしたり、ドラフトで選んだりするのが仕事です。アメリカでは監督より評価が高いと言われています。

ビリービーンはスカウトたちの主観で選ばれた選手選考を見直し、統計をもとに新たな選考を行います。具体的には出塁率の高い選手。守備能力は高く評価しません。

しかしそれが原因で現場を預かる監督と対立してしまい、せっかく獲得した選手をベンチに眠らされてしまいます。チームはとうとう最下位に。

そこで覚悟を決めたビリーは自分が選考した選手を起用させるために、監督が御贔屓の選手をトレードしたり、売り飛ばしたりするのです。流石にそのやり方にはビリーの補佐役ピーターもマズイと思ったのか、「彼らを放出するとシーズンが終わった時に説明が出来ない」と止めにかかります。替えの選手を捨ててまで勝負に出ると言い訳の要素が無くなるという訳です。

するとビリービーンズはこう言います。

「大切なのは本気でこれを信じているかだ。
誰に説明が必要だ?誰にも必要ない。
結果はともかく俺はやる」

ビリービーンは自分の短気な性格も良くわかっていて、試合は見ず、携帯片手に文字情報で試合経過をチェックします。また遠征にも帯同しません。ただそんな彼も肚を決めて選手とマンツーマンで接触するところからチームが快進撃を始めるのです。
そして大リーグ記録となる連勝記録を作り上げるシーンはまさに圧巻です。

2つ目の見どころはビジネスとしての視点。
ビジネス映画としての魅力もこの映画は持っています。ヤンキース3分の1以下の予算で対等に戦う思いが強いのです。

「我々がこの予算で勝てば世界が変わる」という理念を胸に、当時、大リーグでも批判的だった統計学を利用した戦術で戦います。統計データでは出塁率ここにこだわった選手起用を行います。パントや盗塁得点圏打率といったものは勝負に貢献しない要素として切り捨てます。
少しそれますが、「もしドラ」を思い出しました。あの本でも弱小高校がバントは勝利に貢献しないとして切り捨てます。

それだけでなく、本当は価値があるのに「安く」く評価されている選手を集めるのです。

そうやって快進撃を続けるも結果は惜しくもあと1勝というところでワールドシリーズを逃してしまいます。しかしシーズン終了後、ビリービーンは引き抜き話でレッドソックスのオーナーと面談します。その時、統計学を使った理由をこう答えるのです。

「ベーブ・ルースの呪いが科学で解けるかと。」

するとレッドソックスのオーナーも認めてこう返します。

「君は41,00万ドルで決勝進出チームを作った。主力選手抜きで。
勝ち数はヤンキースと同じ。彼らは一勝当たり140万ドル、君は26万ドル。
君もいろいろ言われたろう。だが最初に何かをなすものは叩かれる。」

そういって5年1250万ドル、当時の日本円にして15億、GMとして世界一の契約額を提示されるのです。

そして3つめはヒューマンドラマとしての見どころです。

主人公ビリービーンは鳴り物入りで18歳でプロ入りするも泣かず飛ばずで引退、スカウトを経てGMに就任します。

統計学を試したのは自身が選手として成功しなかった苦い体験を引きずっているからです。
選手の何が勝利に貢献する要素なのかを見極めたかったのだろうと思います。身体能力ばかりが注目されて、自分の内面の弱さを見抜けなかったスカウトたちへの怒りもあるのです。

映画ではフラッシュバックで子どもの頃の映像が繰り返され、若き日の苦悩の詳細は描かれません。ただ原作によると、とてつもない天才だったようなのです。おまけに頭まで良くて。
プロ入りするまで「挫折」を知らなかったビリービーンはプロ入りして初めて経験する「挫折」の対処法がわからず、6年程度の現役生活に自ら幕を閉じるのです。彼は「心」が弱くて成功しなかったのです。そして不幸なことに彼の弱点は彼と高校の監督以外知らなかったのです。

彼は大学に行くか迷った18歳の時、多額の契約金につられてプロ入りを決意したことを後悔しており、それが10億円を超えるレッドソックスからのオファーにまた悩むところでラスト(10分)を迎えます。

善戦はしたものの2年連続、あと1勝でワールドシリーズ進出を逃したビリービーンは「負けてしまった」と落ち込みます。GM補佐役のピーターは「レッドソックスからのオファーがアナタの価値」だと慰めるのですが、ビリービーンは「負けた」といって譲りません。

そこでビリーをビデオ室に連れて行ってある選手の笑える動画を見せます。ここが泣ける所でもあるんで、ぜひご覧ください。

そしてオファー受けるかどうか悩みながら車を走らせぬところで映画は終わります。
車の中でビリービーンの娘が吹き込んだCDをかけると【エンドロール】が流れ後日談が字幕に。

ビリーはレッドソックスの1250万ドルのオファーを断り
アスレチックスにとどまった。

2年後レッドソックスはワールドシリーズを優勝。
アスレチックスが挑戦した理論を証明した。

ビリーは未だシリーズ優勝に挑戦中。

♪パパはおばかね、パパおばか
もっと〇〇〇〇〇〇〇

「もっと〇〇〇〇〇〇〇」と娘に忠告されるのですが、この言葉はぜひご覧になって確認してください。
映画全体をひっくり返すような一言だと思いました。映画では深く語られなかったけれど、ビリービーンの野球人生そのものへのアドバイスとも受け取れますし、プロ野球の本質を問うている言葉のように感じました。

1回だけ見ても泣ける映画ではあります。が見る人の知識量によって涙の量が変わる映画です。みなさんもぜひご覧いただいてご感想お聞かせください。

追伸)映画では悩んだ末、レッドソックスのオファーを断ったということしかわかりません。実際には契約書にサインした後、すぐに撤回されたそうです。事実はホントにドラマティックです。