ビジネスブックマラソンの土井英司さんが「教えたくない本」と高く評価していたので、手にとりました。投資信託の販売経験のある私には共感と違和感入り混じる一冊でした。

「投資家の思想が日本を救う」、「投機と投資は違う」、「売らない株を買えば良い」という点はおおいに共感した一方で、インデックスファンドや国際分散投資に関する見解についてはファンドマネージャーのポジショントークに思えたからです。

通常、機関投資家というのは決算の関係もあって、決められた期間内に利益確定するため売買せざるを得ないという業界事情もありますから、「売らない株を買えば良い」という言葉は、とても新鮮でした。それは農林中金だからこそ出来たことと思いましたし、そのようなポジションを勝ち取って運用されていることは素直に感服するところです。

また、株を選定する際の3要素、「高い付加価値」、「高い参入障壁」、「長期潮流」に関するくだりは読みごたえがあります。ファンドマネージャーならではの見解で、なるほどこうやって株式を評価しているのか!と納得します。

「私たちは売らなくて良い会社しか買わないと言う強い思いで投資するべき会社を発掘してきました。日本国内で運用されている投資信託で私たちと同じ考えで運用しているところは皆無に等しいと思います。そのくらい私たちは少数派です。」

筆者のこの言葉が本当であるならば、ご自身の運用成績まで開示されると更に説得力の高い一冊になったと思います。

「ウォール街のランダムウォーカー」という本の挿絵にこんな一節があります。経営者らしき人がスーパーマンのシャツ着たファンドマネージャーらしき人物にひとこと。
「値上がりする銘柄をあてたことは素晴らしい。しかし、全体としてS&P指数に打ち勝つことはできたのかね?」

この本の中にも50年超にわたって年率18%の平均リターンを上げたバークシャーハサウェイの話が登場しますが、筆者の功績はいくらだったのか?投資家たるもの年率何パーセントの目標をとったらいいのか?それはどのような投資で可能なのか?そしてそれは一般人でも出来ることなのか?などが書かれていたら、よりリアルだったでしょう。そしてインデックスファンドや国際分散投資に疑問を呈する論拠にもなったことでしょう。

「投資家の思想が日本を救う」という点には共感したものの、投資することで、どのような効果を期待できるのか?常に顧客の老後資金を考えている私には少し物足りなさを感じる一冊でもありました。

【珠玉の一文】
「このように参入障壁について思いを巡らせると、つくづく経営は参入障壁を作るゲームであると思えてきます。」

共感出来たとろ(違和感覚えたところ含め)一部編集しつつ【刺さったコトバ】

・額に汗して働くことが美しいというのが日本の公立学校の先生の価値観なのです
(中略)そこをどう変えていくかがこれからの日本の教育にはとても重要になってきます

・自分の時間と才能を切り売りして働くのが労働者1.0です

・永森さんを部下にしたいと思ったら日本電産の株式に投資すれば良いのです。

・自分が入社したいと思っている会社の20年から30年間の長期チャートは必ず見なさい。

・かつて死亡年齢と言われていた80歳を超えて100歳まで長生きしてしまうことによる支出の増加分だけ40数年間の労働期間中に多く稼ぐ必要があるのです

・自分の中に2つの課題設定をしました1つは相場を知ることそしてもう一つの課題はMBAを取得することです。

・バークシャーハサウェイの年平均リターンは1965年から2千18年までの54年間でなんと18.7%ですこの間S&P 500の年平均リターンは9.7%だったので市場平均を大きく上回るリターンを上げ続けてきたことになります。

・バフェットはこう言います「私は投資した翌日から5年間は市場が閉鎖されると想定して投資判断をする」。

・日本のバークシャーハサウェイを目指してとだけ記しました。それはまさにバフェットのように売り買いせずにリターンを上げることが日本でも可能では可能なのかと言う壮大な社会実験の始まりでした。

・中心理念は経世済民です。経営者従業員と同じ船に乗ります。

・この後からどれだけの農作物が取れるのかを考えるのが投資でこの土地がどれどのくらい値上がりするのかを考えるのが投機です。

・「株式市場は短期的には人気投票の場に過ぎないが長期的に見れば価値の計測器として機能する」ベンジャミングレアム

・投機はゼロサムゲームです。そのゲームに参加しているプレイヤーの損得を合計するとゼロになるようなゲームのことです。

・株価が合理的な株価よりも大きく値下がりした場合これについて「悲観は友達」であるとウォーレンバフェットは言っています。

・株価が大きく下がればその分だけ割安に投資できるわけですからリスクが大きくなったのではなくむしろリスクが小さくなったと捉えることもできるのです。

・確かに不動産はその不動産に建物を建てることによって収益を生み出すことができますがその収益を持続的に増やす事はできません。そこが不動産投資の限界点と言っても良いでしょう。

・投資家になると言う事は1を100にする資本主義の仕組みに貢献することなのです

・私たちは売らなくて良い会社しか買わないと言う強い思いで投資するべき会社を発掘してきました。日本国内で運用されている投資信託で私たちと同じ考えで運用しているところは皆無に等しいと思います。そのくらい私たちは少数派です。

・強靭な構造とは3つの要素に支えられています。「高い付加価値」、「高い参入障壁」、「長期潮流」です

・本物の長期潮流とは何か?これは深不可逆的であると言い切れるものだと思っています。
国家財政は悪化すると言うのも長期潮流の1つでしょう。そして長生きしたいと言う長期潮流と国家財政は悪化すると言う長期潮流を掛け合わせたときまた別の長期潮流が生まれます。

・参入障壁はニュートンの「万有引力の法則」ではないけれども何もせずに放っておくと必ず落ちます。

・最近インデックスファンドへの関心が高まっているようですが、これらの長期的に利益を増やすことができない企業が多数含まれるインデックスのファンドを買うのはいくら長期保有を心がけたとしても時間の無駄以外の何物でもないことを申し上げておきましょう。

・長期投資の長期とは永久のこと。

・債券と株式は根本的に異なるものですが株式に投資する私からすれば株式は償還期限のない永久債に投資しているイメージを持っています。

・投資対象を選別する上で1番大事なのは仮説を立てることです。

・数値は未来を語るものではありません。

・もちろんそこまで株価の正しい水準を導き出すことができて、かつタイミングも図れると言うのであればそういう投資の仕方でも良いと思います。そういう天才はもう働く必要もないですよね。もっとも世界中のヘッジファンド投資をしていた時ですら残念ながらそんな天才に会った事はありません。

・正直何を買えば良いのかも含めて草場の前では人間の知識なんてたかが知れていると言う謙虚な気持ちは持ち合わせておくべきでしょう。

・売却するケースが3つあります。「私たちの見立てが間違っていることに投資した後で気づいたとき」、「より面白い投資機会が出てきた時」、「株価がフェアバリュー対比で上がりすぎた場合」です。

・株主優待を出すと言う事は結局のところ会社の価値を切り売りしているだけに過ぎないのです。これは身の丈以上の高配当を出す会社も同じです。

・配当が支払われるたびに確実に株価は下がります。これを配当落ちといいます。つまり配当前の株価=配当後の株価+配当なので配当が高ければその分配当落ち後の株価は下落し株式にとっては完全に差し引きゼロなのです。

・配当を受け取る事は将来の企業価値の増大を先食いすることであり複利効果を諦めることになるからです実際にアマゾンやGoogleなどの競争力が高く今後の成長機会の大きな企業やバフェット氏のバークシャーハサウェイが無敗である事は発行体投資家双方にとって合理的なのです。

・やってはいけない事はとにかく手数料の安さだけでファンドを選ぶことです。

・為替レートは単なる通貨の交換レートでしかありません。効果のレートなので先進国同士であればどちらか一方に大きく動くことにはならないと考えるべきです。ある程度長い目で見ると再び居心地の良い水準に戻ってきます。

・最初から国際分散投資ありきと言う考え方は根本的に間違っているのです。